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CIR Insights

CIRセミナー「授業評価データの活用と組織的な教育改善」報告

2016年12月7日開催

CIRセミナー「授業評価データの活用と組織的な教育改善」報告

報告者:杉本和弘

日本の大学では、1990年代からの経験を経て、「授業評価アンケート」はほぼ定着したと言えます。振り返れば、1980年代半ばから一部の大学で授業評価の試みが始まりましたが、ちょうどその頃学部生だった筆者の記憶では、学生が教員の授業に物申す文化はまだまだ一般的ではありませんでした。それに比べれば、現在の状況は隔世の感があります。いまや学期ごとに授業評価の洗礼を受けることは大学教員の必須要件だと言っていいでしょう。しかし、だからといって、アンケート結果を授業改善に十全に活かせているかといえば少なからず不安がよぎるのも事実です。

その意味で、今回のセミナーは原点に戻り、教育IRとしては古典的テーマと言える「授業評価データ」に光を当て、その活用によって組織的教育改善にどう繋げるかについて改めて考える機会となりました。IRというとデータウェアハウスやビジネス・インテリジェンス(BI)といった(大学では比較的)目新しい取組みに目が行きがちですが、地味でも着実に蓄積されてきた既存データの価値を再認識するという意味で「授業評価データ」の活用を再考することは重要です。そんな問題意識を背景に、学内関係者による報告と議論が展開されました。

授業評価は、全学統一フォーマットで行う大学もありますが、東北大学では全学教育や専門教育等の課程ごとに独自の方式で実施されています。そこで、本セミナーでは全学教育、文学部・文学研究科、医学部・医学系研究科における授業評価の実施と分析の取組みについて報告をいただくとともに、授業評価データの中でもこれまであまり手がつけられていない自由記述の分析手法も取り上げて議論が行われました。

まず、串本准教授(教育評価分析センター)から、全学教育での授業評価の歴史を振り返った後、データから読み取れる時間外学修時間や授業方法等の特徴について報告されました。全学教育では、平成17年度から実施結果報告書が公開されていますが、こうしてセメスターごとに積み上げてきた結果を、授業担当者だけでなく、科目委員会や学務審といった組織レベルでもっと効果的に活用していく必要性も指摘されました。

阿部教授(文学研究科)からは、文学部・文学研究科における授業評価が約20年に及ぶ歴史を有し、現在は学務教育室が所掌して取り組んでいることが紹介されました。授業評価結果は教員個人にのみフィードバックして全体の結果は毎回HPにアップしているのに加え、「教育環境評価アンケート」や「英語原書講読アンケート」も実施するなど、複数のツールで学生ニーズの把握がなされているとのこと。その反面、文学部の特質に応じたアンケートとして自由記述を増やしたいが分析の手法やコストに課題があること、大学院における研究面の改善につなげられる項目を設定することの必要性が指摘されました。

岩崎助教(医学教育推進センター)からは、医学部専門科目の授業評価について同センターが集計とフィードバックを担当し、年1回『学生による授業評価報告書』を発行していること、さらに医学部特有の取組みとして、各診療科での実習に関して学生と教員によるウェブでの評価が行われていることが紹介されました。授業評価結果が過去10年間に年々上昇してきている経年変化も示され、評価得点と自由記述の関係性についての検証から、自由記述が個人レベルの授業を改善させている可能性があるとのことでした。他方で、テストと同時に授業評価を行っているので、授業評価がテストの評価となっている点などの課題も指摘されました。

そして、松河講師(教育評価分析センター)からは、自由記述分析の困難さが述べられた後、新たな分析方法として、単語に注目した内容分析の可能性が紹介されました。単語の出現率に基づいて科目群の特徴を把握したり、「トピックモデル」と呼ばれる手法を用いて、自動的に分類したりすることにより、これまでとかく死蔵しがちだった自由記述の分析が可能となるということで、今後さらに実用化を進めていく意義がありそうです。

今回、以上4つの報告を通して、本学での多様な取組みと課題を共有するとともに、全体討論を通して、改めて「授業評価データ」の可能性と限界が認識できたように思います。さらなる可能性としては、前述の通り、自由記述を中心にデータが依然十分に活用されていないこと、さらにそれを効果的且つ効率的に組織的な教育改善につなげていくシステムが確立できていないことから、それを変えていく必要があるようです。逆に、限界としては、例えば授業評価で高い結果が得られると、さらに高みを目指して改善しようとするには授業評価だけでは不十分だという点です。つまり、授業評価に加え、教育・学習に関する統合的なデータの分析とそれに基づく改善戦略が求められるということになります。このことは、教育評価分析センターの今後の活動を考える上でも見逃せない示唆と言えそうです。

 


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